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◎  心に残る思い出の旅 

もうずいぶん前すぎて、
地名も駅名も路線すらも思い出せない。

でも風景は鮮明に覚えている。

肌で感じた温度も覚えている。

出会った人も覚えている。

僕は一人旅とかはほとんどしないので
本当に思いつきで、とある一日をつかっていきなり決行した。
青春18きっぷを持って、電車に乗った。

特に何にも考えず、車窓を眺めていた。
まだ若かったし、今ほど旅を体験しているわけでもないし
ワクワクした。
街はどんどん山になっていった。

とある駅についた。
目的地に行くにはこの駅で乗り換えねばならない。

午後。うっすらと雲。ゆるい日差し。

30分ほど時間がある。

冬の初め、肌寒い。
缶ビールを開けた。

駅にはいろんな人がいた。
それを眺めていた。
あまり遠くない所に小高い山が連なっていた。
とりあえず、写真を数枚とり、たくさん深呼吸をした。

のんびりした。

再び電車にのって、トコトコ移動した。
雲が厚くなってきた。

駅についた。
降りた。


駅は小さく、出てすぐ前はすこし広い砂利道。
目的地は決まっていたので、迷わず進んだ。

目の前に大きな大きな看板が立っていた。
ここが入り口だ。

ゆるやかな山道があり、木々の間を進んでいく。

少しいくと山道の横に小さな建物があって、
銭湯だとわかった。
小さい板に、これまた小さくお風呂に入る説明が書いてあるだけ。
木造。木の扉。少し雨。

入ると誰もいなくて、どうしようかと思ったが
木戸銭250円を箱に入れて、中に入っていった。

細い木の廊下を歩くとすぐに脱衣所。すぐ横がお風呂。
お風呂場も木造。洗い場が2つと、あと湯船だけ。

そんなわけで山の温泉に来た。

よくわからないくらい異様なテンションの上がり具合。
誰もいないのをいいことに、素っ裸でそこらをうろうろする。
窓の外の雪を食べる。
風呂に浸かる。
カメラをもってきて自撮りをする。
のぼせそうなので出る。

建物を後にし、山道をすすむ。
小一時間ぐらい。
杉林が広がる道。
まっすぐ伸びた木が、ずっと続いている。くねくねうねりながら上の方へ。

ぽっかり景色がひろがる。

お風呂屋、お風呂屋、おみやげ屋。お風呂屋、住居、食べ物屋。
人はほどんど歩いていない。

その日は休日だったので、正直、お風呂屋しかやっていなかったが
目的はここだ。だからいいのだ。

何軒かあるところから、1軒を選ぶ。
実にシンプルな、安価な、共同浴場。

がらがらっと入ると、にこやかなおばちゃんがいらっしゃい!と言う。

銭湯代を払って、脱衣所へ。
すると、がらがら、がらがら、人が入ってくる。
どこにいたのか?というくらい。

おじいちゃん、父子、お兄さん…

また、すっぱだかになり、コンクリートの階段を降りて
また、がらがらと扉を開ける。
こじんまりとした空間。
洗い場が5〜6っこ。
小さいながらも2つの湯船。全体的にコンクリート。
おじいちゃんやお兄さんがそれぞれ入る中、
お父さんが息子にお風呂場マナーを教えている。
あまり興味がない様子で、ときおり言葉が強くなるが、仲はよさそう。
僕もはいる。
さっき入った時の独り占め感はないが、これこそ共同浴場という空気。
なんだかんだで子供もお父さんも笑っている。
いつのまにかお兄さんがいなくなっている。
おじいちゃんが入り続ける。
温度は調度良いくらい。多分40度ほど。
今度はのぼせる前に足早にでる。

やっぱり、がらがら、がらがらと人が入ったり出たりしている。
人口はすくなくとも、こういったコミュニティがあると、自然と人は集まってくる。

雨が止んでいた。

少し街を歩く。

といっても、10分も歩くと全部見て取れる。
少し奥にいき、木の階段をあがっていく。
この上は神社になっている。

案外高い。

真っ直ぐ、急勾配。

ときどき、木材が散らばっている。
とうとう登ると、赤い鳥居と、赤い社殿。

簡単にお参りをすます。

さて

最後の目的地です。

高い所からこの街を見下ろしてみる。

雲がうっすらとかかり、ちょっと幻想的。
高いといってもそこまででもないので、
軽く上から目線程度。

さっきまで歩いていた街がこじんまりと下の方にある。
人はあんまり歩いていない。
まだ夕方なので、明かりもともっていない。お風呂屋さんの煙がチラホラしている。
あとは周り中が山で、くぼんだ所にあるのだとわかる。

この街はあと1年もしない内にダムの底に沈むという。
そんな話を耳にして、有数の秘湯だという事も聞いて、
何かに惹かれてやってきた。
特に変わらぬ生活がまだまだ残っていた。普段通り過ごす人々がいた。

そういえば、途中、高い所にあるとても小さいのざらしの共同浴場もあった。
湯船のうえにひさしがあって、脱衣所も風呂場も丸見え。
だから、特に書いてはいないが、男専門のようなばしょ。
入っていたら、地元のおじさまたちががやがややってきた。
あいつは今どーしてる、だの、昨日飲み過ぎたーなど話している。
何も変わらない。
人々からはダムで沈むなんて事、まったく感じなかった。

その日一日、特にだれとも会話をしなかったが
いろんな顔を見た。
いろんな事を考えた。

今思うことは、
もう行けないだなぁという事。

どこのダムで、どこのまちだったか、未だに全く思い出せない。



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